満州開拓 富貴原郷開拓団の記憶

満州開拓-富貴原郷開拓団の記憶 - 箕輪町郷土博物館開館40周年記念冊子 - 箕輪町図書館蔵書のデジタルアーカイブ


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―伊藤さんも亡くなったんですか?松沢:そう。あの人はねえ、終戦になって、泉平に来て、野菜は何かいっぱい畑に作ってあるに、それをとりに行くっちゅってね、タークルチャーに乗って行ったんだに、西川さんと。西川さんははすっこいもんで逃げて来たけえど、あの人モタモタしてるもんで、鎌でねえ、頭くすげられちゃっただ。―伊藤與一さん?松沢:ええ。―それは天草で?宮下:そうじゃねえだ。松沢:それは泉平、じゃねえ大和。―大和に居た時?松沢:大和でその怪我をしたの。ほいでそれをジクジクジクジクねえ、いろいろ手当ても無いもんで、水が出たり血が出たりしてたんだよ、包帯して。―まだ何かあるらで取りに行くっつって、取りに行っちゃった?宮下:そうそう。松沢:ほいで、馬と車をそれこそ盗まれてね、せっかく沢山車へ積んで持って来ようと思ったところをやられちゃったもんでね。ほいで西川さんははすっこい人だもんですぐ逃げてきちゃったらしいんだよ。伊藤さんはモタモタしてて、ねえ、結構怪我をさせられて。―それで天草へ来てから…。松沢:天草で鉄砲に撃たれたの。―また、そこで?松沢:そこで。―一回鎌で切られてるのに?松沢:ほいで亡くなったんだに。ほいでその人(伊藤たけ子氏)もね、やっぱ帰って来なんだけえど、向こうの人と再婚してねえ。―(伊藤與一氏の)奥さんがですか?松沢:ええ、ほいであのう、岡さんもそうだと思う。宮下:ほいで帰ってこねえのは初っちゃよ。松沢:初っちゃはどうしてるかなあ。宮下:初っちゃはへえ兄さんが、あのう沖縄で玉砕したで家行っても誰もいねえしっつって帰って来なんだ。―でもお兄さん帰って来てるんですよねえ?稔さんっていう?松沢:ええ、帰ってきて、幾度も来たに、ねえ、富貴原会に三回ばか来たよ。妹のあれを知りたいもんでね。―探したかったんですね。松沢:ええ、東京からわざわざ来たに。初っちゃってものすごく元気のいい娘、もう乗馬に乗ってトッコトッコなえ、どっからどこまでも飛んだいって、優秀な娘だったよ、元気のいい。―天草で一番襲撃が多かった(激しかった)のは昼間の襲撃の時?松沢:夜が着いた途端にねえ、知野さんちゅってねえ、知らん?知野さんって、弟さんが帰って来てるわけ。兄さんがね、伝令に行って帰りにやられちゃったんだよ。―それはいつですか?それは昼間じゃない時?松沢:昼間だよ。―昼間の時?松沢:ええ。あの、それこそ天草に着いた途端だに。途端にまあ、軽かったわけだよねえあれは、そん時にね、弾があたって、ほいで背中を通って、背中の穴(※背中に入った穴)なんかこればっかでねえ、出た穴がこんなにでかかったとか言ってねえ、よく言ったじゃん。そん時即死だったの。―それはさっき言った襲撃の時とは別の時?宮下:別だと思う。―天草に着いてすぐの襲撃?松沢:そう、着いてすぐなの。宮下:どうだったかなあ。松沢:ほいであの息子さんだって、まだ幾つ…若かったねえ弟も。可哀想だったけえど。宮下:でかい襲撃が二回ばかあったなあ。あとは毎日毎日朝になると来るだよ。―匪賊が?宮下:匪賊が。毎日何かどうか剥ぎに来る。ほいであのう、おぶ紐の中にお金を隠していたけど見つかって…。松沢:倉田さんはねえ…。宮下:ほいしゃあ今度はおぶ紐もみんな盗られちゃうじゃん。(おぶ紐の)中の芯だけで背負ってきたんだぜ。松沢:倉田さんねえ、今の、倉田さんはおぶ紐の中にねえ、あの人お金がたんとあったそうでね、お金入れといたらしいいんだよ。どうやって見つけるかなあ、ああいう衆は、臭いもしないに。宮下:ほいだしこうやってみればわかるよねえ、札が幾つも入ってりゃあねえ。松沢:ほいでねえ、えらいめに遭ったに。叩かれてねえ。―それは毎日叩かれるってことですか?松沢:毎日叩かれるのは男の人。前へ男の衆が並んでくれるの。女の衆は奥へ奥へって逃げてくきり。毎日だよ。まあずねえ、時間が決まってるんだよ、虱とりをして…。


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