満州開拓 富貴原郷開拓団の記憶

満州開拓-富貴原郷開拓団の記憶 - 箕輪町郷土博物館開館40周年記念冊子 - 箕輪町図書館蔵書のデジタルアーカイブ


>> P.75

松沢:そう。あのメリヤスがほしいんだよ。―メリヤス?宮下:着物欲しいのえ。松沢:下着のメリヤスってあるじゃん。―寒いもんでそれを盗りに来る?松沢:それをねえ、それを盗られちゃうと今度は何十度も寒い冬を越さにゃあだに困るじゃん。ほいだもんでまあず、こっちの奥の方へ見えないように着て…。宮下:一番最後にわしあれ投げてやっちゃったけどね。松沢:何ともかんとも無かったなえ、何しろ色々あったわ。―天草が一番襲撃がひどかったですか。宮下:そうそうそう。松沢:おっかなかったに、あの時になえ、八人ばか死んだに、撃たれて。―それは夜の時?松沢・宮下:昼間。―それは校庭に追い詰められてっていう、輪になった時ですか?松沢:ねえ、こういう訳。朝ね、あの桐原先生がね、あの団長の代わりをしてたんだよ、ほして先生がね、絶対にねえ向こうには匪賊が見えるけえど、こっから絶対出ちゃあいけないちゅったんだよ、危ないから。ほいでみんなそのつもりでいたんだけえどね、ほいたらもう何か危ないちゅうことでねえ、ここに居ちゃあいけないっちゅうことで外へ出ろちゅってね、みんな。ほいであの、わしは具合悪くてね、ほいで敷布団一枚っきりあったやつを貸してくれたんだよね、安藤さんが。ほいでそれを敷いてちょっと横になってたらねえ、戸を開けなんでねえ、戸を倒して入って来てねえ、ほいでわしがね、もう敷布団をねえ、こうにしてわしが向こうの方まで飛んでっちゃったんだよ。―ひっぺがして?松:そう。おっかなかったな、あの時は。―ほいでその後どう?松沢:ほいでその時に、もうここに居ちゃあ危ないから、すぐ外へ出ろっちゅってね、桐原先生が。外へ出たらもう、支那鎌のこんなにでっかいので振りからかしてるし、そうかって今度はピストルであれしつら、もうねえあんなピストルなんてまあへえ、とにかくへえ運にまかせるっちゅう、畑の畝と畝のねえ、歩きづらいよね、ほいでそう逃げちゃいけないつうんだよ。宮下:逃げちゃいかんたって後ろに鎌がついて…。松沢:逃げないと鎌で切られちゃう。―校舎から出ろと言われて?それは先生が言った?松沢:桐原先生。―その時現地の人はどういう襲い方をしてきたんですか?宮下:匪賊はラッパ吹いて来るけどね。一番最後の時はジャラントンから何か兵隊がついて出て。松沢:保安隊ちゅうか何ちゅうかね。宮下:そういう衆が来てね、やめさせたけどね。松沢:そん時に帰って来てみたらねえ…。その時に大勢亡くなったに、鉄砲で撃たれて。あの治子さんて知ってるら?―岡さんですか?松沢:岡さん、あの人もそう、ここんとこ撃たれちゃったの。―それは逃げる時に撃たれたの?松沢:天草にいて出ろっちゅって…。―出れなかった人?松沢:出たんだけどそこで撃たれちゃったの。―校舎から出ろっていうこと?松沢:うん。校舎っつうか…。―建物から出ろって言われた時に?松沢:出て、そう…撃たれちゃったの、その時に。あの可哀想だったの治子さんは、お産のお手伝いに来たんだでね、姉さんの、兄嫁さんの。―ああ、そうなんですか。松沢:ほいで帰れなんだの、産後がひどくて、それで犠牲になっちゃったんだに。宮下:ほいだもんで帰れなんだのよ。松沢:帰れなんだの。宮下:妹を死なせちゃったって…。岡さん帰れねえって。お産に来てて手伝ってもらって、そうしたら死んじゃったんじゃねえ。松沢:岡さん、あの人は子供をねえ、亡くなったし、ほいで妹を殺しちゃったりするで、日本には帰らないちゅって帰って来なんだんだよな。―自分の意思で?松沢:ええ。ほいだら岡さん(正さん)はちゃんと帰って来てて、幾日か待ってたんだに。帰って来るのを。ほいだけど(石子さん)が帰って来なんだもんでね、再婚したんだけどね。―その時に他にも亡くなった方は大勢いるんですか?松沢:大勢いるよ。何ちゅう人だったかなおばあさん。宮下:下澤のおばあさん。腹撃たれて。松沢:伊藤さん知ってるらね、与地の人。


<< | < | > | >>