満州開拓 富貴原郷開拓団の記憶

満州開拓-富貴原郷開拓団の記憶 - 箕輪町郷土博物館開館40周年記念冊子 - 箕輪町図書館蔵書のデジタルアーカイブ


>> P.73

―伊南へ行こうとした時に、大和の人達はそれを匪賊だと思って山へ上がっちゃった?宮下:そうそう、上がって、ほいだもんで伝令が行ったわけだ、ね。―はあはあ、ほいで早まるなと…。宮下:ほいでこの衆は、まあそういうことだわ。松沢:あの、もうちょっとで飲むとこだったよ。もう死んだつもりでいたものねえ。宮下:ほいだもんで、あの植田さんのおばさんは、おら松沢さんのお金も預かってたんだけど、その時にみんな盗られちゃったって。―村を空けたもんでその時に盗られちゃったってこと?松沢:家のおじいさんは兵隊に行く時にね、植田さんは本部勤めだっつら、ほいでそこへ貯金をしたのかなえ、知らんけえど。あったお金をねえ、みんな植田さんに預けたのえ、貯金してくろっつうことだか知らないけえど、預けたんだって。ほしてそれを、お金っちゅうものをわし持ったこともないし、無かったの全然、使う用も無かったもんで。ほいでそれを、まあ盗られちゃったわけだ、植田さんが。ほいでその「悪かった悪かった」ちゅっちゃあねえ、よく、ずっと言ってたにねえ。ほいたらねえ、もう幾年ばか前だったかなあ、ありゃあ。えーと、家へ来てね、あの仏様の供養をしたもんで、その時に呼んで供養したの。そん時にね、ちゃんと、あのお金がね、ちゅって帰してくれるじゃん、そんな帰してもらうつもりじゃないじゃんね、そんな時の金なんか、いらないって言うのにね、気が済まないって、どうしたって気が済まないでとっといてくれってねえ、わしも困るってさんざん言ったんだけえどねえ、どうしたったって置いてったんだよね、お金を…。宮下:わしなん早っ気だもんでねえ、天草、じゃねえわ、駒ヶ根の、あの伊南の開拓団に行った時に、ね、みんなへえこれでおしまいだっうわけだ、あそこに二日ばか居たんだよなあ。―伊南に行った時は本部と花岡の人達だけが伊南へ行ったんですか?宮下:いいや、この衆(松沢さんたち)も一緒に行った。松沢:一緒に。わしたちゃあ青酸カリ飲まなんで下ってったわけ。宮下:伝令が行ったもんで。―伝令が行って気付いて、ほいで伊南へ行ったんですか?松沢:そうしたら夜はねえ、大和はねえ、みんな燃やすんだよ、家を。宮下:わしらなんか本部に居た時に家んとこ(※花岡)見たらみんな燃えてた。中の物全部盗っちゃっといて…。松沢:燃やすんだよ。宮下:そう。松沢:ほいだけど全部燃やしてなくて、また大和へ帰ってきてそこで二日ばか居たんだよ。そん時にもいつ匪賊が来るか分からないもんで赤ちゃんはもう負ぶったまんま、夜でも。―寝るのも?松沢:よくこうやって寝てたよ。―横になって寝るの?松沢:横になんて寝れないよ、赤ちゃんいるもんで。―座って寝るんですか?松沢:負ぶってこうやって寝てたよ。ほいで次は、もうここに居たらねえ、もうすごい危ないちゅうことで、ほいであの、天草ちゅうことはその時知らないけど、どっか行くんだってねえ、ほいでみんな身支度をしてなえ、ほいでまあ、子供を、歩けない子供をタークルチャーに乗せたりねえ、年寄りの衆と、荷物をいっぱい詰めて、ほいて出かけて行ったわけ。宮下:そしてその時に蒙古の衆がいたわけだ。年寄りと荷物は載せてったんだ。―天草へ行く時に?宮下:わし達は、天草行く時に。松沢:夜はね、おっかねえなえ、槍だか…。途中がねえ、おっかなかったんだよ。宮下:途中に満人のヘボいやつが居たんだな。それこそ匪賊。松沢:おっかなかったなあ。―攻撃はしてこなかった?松沢:しないの。しないけえど槍だか何だか知らんけえど。宮下:兵隊がちゃんとついてるもんで、ね、兵隊がついてる。―それは蒙古の警備隊?宮下:警備隊がついてたもんで。―ちょっと戻っていけないんですけど、さっき言ったように、あの間違えてね、青酸カリ飲む手前で伝令が行って分かって、みんなで伊南へ行って、その後また大和へ戻ってきて…。宮下:大和に戻らんよ。ちょっと二日ばか居たな。その時にね、もうダメだっつうことで、お父さん達の写真や、ね、見つかると…。―え?大和で?宮下:大和じゃない、伊南のとこでね。みんな、お金も…。松沢:早っ気だもんで、ハハハ…。宮下:わしは早っ気だもんでねえ、金までみんな燃やしちゃったの。―伊南で?宮下:勝ちゃにね怒られて怒られて。松沢:お金なんて燃やさなきゃいいものを、ハハハハ…。


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