満州開拓 富貴原郷開拓団の記憶

満州開拓-富貴原郷開拓団の記憶 - 箕輪町郷土博物館開館40周年記念冊子 - 箕輪町図書館蔵書のデジタルアーカイブ


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松沢:一緒だったの、ええ。―他に一緒に行った人いますか?松沢:他にいない。―ああそうですか。ほいで新潟から行って、羅津に上陸して、そこから電車?松沢:ええ。汽車だか知らんけえど乗っていったわけだけえど。―で、駅はどこで降りて?ジャラントンですか?松沢:駅はねえ、新京でねえ、降りたんじゃあないに、泊まったわけだ。汽車が止まって、新京ちゅうとこで。ほいで今度はハルピンでね、あのう、一晩、降りて一晩泊まったわけ。ほいでそれから…。宮下:帰りのこと?松沢:行く時。―行く時新京にも寄るんですか?松沢:ええ。宮下:わしゃあどうやって行ったかわからねえ。松沢:ほいでハルピンでねえ、一晩泊まって、ほいで今度乗って、ジャラントンまで行ったの。チチハルだかそういうとこ通ってったよ。ほいだけどねえ、何しろねえ、駅と駅の間の、ものすごい時間がかかるんだよ。広いもん、あの地平線。あの地平線が。―向こうへ行ったときの何か感想とかは、何か覚えてることとか?宮下:酔ってったもんでね。―酔ってった?宮下:本部にねえ、林さん、四人ばかいたもんで、その衆んとこでねえ、四日ばかねえ、寝てて、ほいておご馳走になってたの。ほいでっから花岡行ったの。松沢:へぼい船なんだなあ、ありゃあ。ものすごく、こうゆうふうだったにねえ。玄界灘なんかすごかった。フフフフ…。宮下:そうね、負ける際に行くんだもんねえ。ハハハ…あんな頃にな。松沢:白鳥さんなんかあれだっつうじゃん、終戦の六ヶ月前に来たんだっちゅってね。息子さんが言ってびっくりしたけえど。なんでと思うね。ほいで三ヶ月経ったら家中でねえ、奥さんからみんな来るっちゅう…。―向こうで何か暮らしてる中で、思い出みたいなものは?宮下:あるある。花岡はねえ、花が咲くら、うんと花が咲くの。ほいでねえ、向山さんのおばさんと、姉さんの夫、子供がいるもんででかい腹してるじゃん、ほいだもんでねえ、すももが、すももっつうかあんずがいくらでも成るの、こんな小せえ木で。ねえ、袋持ってかついで帰って来たけえど。ほいでカシバミっつってねえ…。カシバミのこんな小っちゃい木にねえ、成るのよ、中がね、それこそ栗のようなものが入ってるの。―ハシバミ?松沢:何ちゅうくだもの?宮下:カシバミ。松沢:あれ知らなかったよ、泉平には梅があったけど。宮下:わしゃねえ、西箕輪で幾年ぶりだ、そうしたらちゃんとカシバミが売ってた。中国から来たんだと思うんだよ。―そういうのがいくらでも採れた?宮下:採れた採れた。松沢:あれ、泉平には無かった。宮下:ほいだけど、早く帰らんと狼が出るじゃん。靴脱がんとこだもんで。怖かったよ。松沢:狼がおっかなかった。わしは豚をとられちゃった。背負ってくに。―え、背負ってく?松沢:そう。だって雪があって引きずっていくのがわかるじゃん。足跡だけはねえ、狼の足跡だけなんだけどねえ、それが、豚がこっち引きずるあれも無いんだよね。ほいでおじいさまずうっとね、あのたどってったらねえ、湿地のねえ、ところにねえ、それこそそこでね、あの殺してね、腹ばただけ残ってたって。―昼間は全然来ないんですか、狼は。宮下:昼間だって歩いてたよ。おっかねえぜ。松沢:おっかねえよ。―鉄砲持って行くわけじゃないのにね。宮下:わしゃ着いた特にねえ、向山さんのおいさんが、「早く来たない」ちゅってねえ、一雄さんが、すぐ鉄砲持ってってねえ、ここで言やあ鹿だけど、向こうはノロノロつっただ。ほいでドーンとすぐ獲って来てくれて、ほいで煮てくれたんだよ。―鹿鍋ですか?宮下:真っ赤い肉で、油気無くて。―美味しかったですか?宮下:ああ、美味しかった。松沢:一軒の家でねえ、あの一つずつあったに、鉄砲は。―警備用のっていうことですか?宮下:そうそう。「やーい来たかい、ほいじゃあ獲って来るなえ」て言って、ドーンと撃って、ヘヘヘ:すぐそこまで行って。―歓迎会みたいな?宮下:そう、歓迎会してもらった。松沢:わしゃあ楽しかったよ。


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