箕輪町誌(自然現代編)

箕輪町誌のデジタルブック 自然現代編


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た。陳情を受けた塚原耕地課長から、天竜流域の既成田には絶対に迷惑をかけない、減水の場合も優先的に水を補償すると説明され、一応納得して帰った。しかし、その後の研究から、県当局の説明では、天竜東岸の水利権の本当の解決にはならないとし、再度出県して水利権の補償を確約して帰り、地元民に納得してもらった。しかし、県の確約にもかかわらず、その後代かきのできない潟水状態になり、地元民の反感をおさえつつ、委員が水取入交渉にかけつける事態も生じた。補償問題川岸の取入口から地区外一二回にわたる土地買収と補償の件数は約二百件に及んだ。諏訪湖周辺町村の排水工事への労力寄付、平出までの魚業有権者の永久補償、排水、湧水、水源固潟、水車撤廃、濯瓶用水等々、補償の条件中には、天災地変といえども被害ある件は補償すべしとし、契約保証金一万円を供托させ、契約違反の節は没収するというものさえあった。大事業遂行のためには、このような要求も甘んじて受け入れなければならない苦しさがあった。今後の課題このようにして開発された西天竜は、直接には食料増産という国家的要求に応え、間接的にも地域住民に与えた恩恵は、前述の通り大きかった。特に戦後は、それまで工事費償還のため、年々反当組合費三円と差額米として玄米二俵を納入して来たのを、昭和二十年の貨幣価値の急落を機に一挙に返済してしまい、地主の負担は著しく軽減したし地価も高まった。現在でも改修費等で維持費はかかるものの、以前とは比較にならぬ軽微なものといえよう。また、縦横に整然と通じていた農道のうち、主要道路を拡幅してパスを通し、山西部との交通の便もよくなった。更に町営水道が設置されてからは、重要な宅地供給地として、あるいは町の諸公共機関の新設および移転地として、新たな価値が見直されている。西天竜開発というこの偉大な遺産をどのように生かしていくかが今後の課題であろう。五


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